ときどきDJ

ときどきDJをやっているIT系の人の殴り書きです。

品田遊『名称未設定ファイル』読んだ

文脈

tokidokidj.hatenablog.com

もともと11月に文庫が出ると聞いていたので購入予定だったのだがkindle unlimitedで読んだ*1。夜酒を飲みながら本を読みたかったので、手が濡れていても汚すことなく読めるからという理由でkindleを選んだ次第。

とても良かった。内容としては短編集で、さまざまな物語が描かれているため「夜に酒を飲みながら読む」のに最適だったと思う。すごいなと感じたのが恐山氏*2の想像力の幅。インターネット、現代群像、ライトSF、ライトホラー、創作論など様々なジャンルを描いている。そしてその全てに、どことなく人間への愛、あるいは憎悪を感じる。人間が好きで、人間が嫌いなんだと思う。あるいは全く興味がないのかもしれない。演出も巧みで、『猫を持ち上げるな』では飼い猫バステが逃げ出してしまったことを心配する主人公秦野の思考(地の文)にインターネットの心無い声*3が交じることで不安を表現していたり、『カスタマーサポート』ではチャット形式で物語が描かれていることでより無機質な異様さから来る恐怖感を煽っている。僕が特に好きだったのは『天才小説家・北美山修介の秘密』、『過程の医学』、『ピクニックの日』、『有名人』。中でも『天才小説家・北美山修介の秘密』は、ネタバレ回避のためなにとは言わないが、直近の氏のnoteなどでも言及されているAI活用論の下地が既にこの頃からあったんだろうと感じられて非常によかった。

ホラーものはちゃんと怖い、根源的な人間に対する絶望、そこから転じて希望、そういったものが摂取できた気がする。良い小説集だった。今は同氏の『止まりだしたら走らない』を読んでいる。読み終わったら書くかもしれない。

*1:それはそれとして文庫も買った

*2:品田遊氏の別名

*3:これは秦野の被害妄想だろうけど