『秋の牢獄』『神家没落』『幻は夜に成長する』の三編が収録。どれも趣と最悪さがあってよかった。爽やかさと仄暗さと、小説ってこういう意味不明体験ができるからやめられんなと思う。
『秋の牢獄』は、11月7日がループしてしまう女子大生が主人公。主人公と同じように11月7日を繰り返す「リプレイヤー」たちとの交流や、リプレイから解放してくれるとされる「北風伯爵」が描かれる。リプレイヤーたちとのやり取りはまるで学生の夏休みのようで淡い。「北風伯爵」は恐怖の対象ではあるものの、名前から受ける印象も相まって、冷ややかではあるが嫌悪感は感じられない。ループを抜け出す最後の一文が素敵である。
『神家没落』は、神様の棲む家に入り込んでしまった社会人青年の話。なんというかこの作者は人殺すのが好きだなーと思った*1。神様の家で神の食物を摂取することで神性みたいなのが宿っちゃったりするんだろうか、みたいなことを考えていた。主人公は狡猾でありながらだんだんと浄化されているように感じていたのに、やっぱりだまし討ちするあたりが人間らしい。しかもよりにもよって最悪の人間相手にそれをやってしまうあたり、筆者の巧妙な話作りに引き込まれてしまう。オチが好きです。
『幻は夜に成長する』、最悪で好きです。これはあらすじを言っちゃうと興ざめなので最初の最初部分のみに触れるが、幻術使えるばあちゃんと小さな娘さんリオの話から始まる。どこ書いてもネタバレっぽくなっちゃうので抽象的な書き方をするが、リオを取り巻く人間の中でまともな人間なの両親くらい。まあ他にもまともな人間いなくもないんだけど、両親*2がまともでよかった。最後のオチも「化け物になっちまったか」と絶妙に胸糞悪くてよかった。
三編、計180pくらいでサクッと読めるのでおすすめです。