最近結構YouTubeで未来屋書店公式チャンネルを見ているんですけど、ちょうど「この作者の人は気になってたんだよな」って方が出てまして。
www.youtube.com
はい、五条紀夫先生です*1。出版区とかもそうなんだけど未来屋書店公式チャンネルは作家の言葉が聞けるので楽しいんですよね。で、この本については本屋で平積みになっててみんな大好き太宰ネタというかメロスネタというかで気になって買ってたんですよ。そんで積んでたので読んだ。
身代わりとなった親友を救うため、メロスは推理した――!
自身の身代わりとなった親友・セリヌンティウスを救うため、3日で故郷と首都を往復しなければならないメロス。しかし妹の婚礼前夜、新郎の父が殺された。現場は自分と妹しか開けられない羊小屋。密室殺人である。早く首都へ戻りたいメロスは、急ぎこの事件を解決することに!? その後も道のりに立ちふさがる山賊の死体や、荒れ狂う川の溺死体。そして首都で待ち受ける、衝撃の真実とは? 二度読み必至の傑作ミステリ!
基本的にコメディ能力が高すぎる。ある種インターネット的な笑いの実力がありまくって、ページをめくるごとに必ずクスッとできるレベルです。それでいてミステリの手法やメロス(あるいは太宰)ネタ/古典ギリシアネタをガンガン入れてくるのでめちゃくちゃ笑ってしまってしまった。
事前に押さえておくといい知識としては当然『走れメロス』だし、正直それだけでもいいんだけど、前述の通り太宰治に関するエピソードと古代ギリシア史に対する知識があるとより楽しめます。といっても古代ギリシア史の全体観を把握している必要はなく*2、都度ピンポイントに人物名とかでググれば十分です。
「第一話 メロスは推理した」はメロスが既にシラクスで喧嘩売ってセリヌンティウスを人質にして村に妹の結婚式参加のため戻ってきたタイミングからスタート。急だけど明日結婚式やってと妹婿の両親に要請したら義父とちょっと空気悪くなっちゃって*3、その後メロス宅の羊小屋で密室殺害された義父が発見されてさあ大変という話。密室トリックについてはそんなに難しくないので必然的に犯人の検討はつくし、犯人の動機については「重厚なバックストーリーなんてあるわけねーわな」って感じでケラケラ笑いながら読めます。この時点で既にフィジカルとクールな短刀の執拗な天丼、登場人物の名前でのふざけが多発していてウケる。
「第二話 メロスは約束した」はシラクスで喧嘩売るところです。国王が変わらず乱心していてよかったです。メロスはもっと乱心してるけどな。邪智暴虐の王に怒りつつセリヌン宅で酒飲みまくって記憶をなくしたメロスが、記憶ないけど警吏を◯しちゃったかもという話。乱心すぎるだろ。実際警吏を殺害したのは誰なのかってのを解き明かしつつ、「まあ状況証拠的に自分が殺ったわな」となり*4、セリヌンを人質にして村に帰るまでの部分にあたる。で、これは大体予想できるだろうけど後半に繋がってきます。そうじゃないとメロスがカジュアルに殺人するだけの話になっちゃうからね。
「第三話 メロスは奮闘した」は妹の結婚式後シラクスへの復路で山賊にあうところの話。この辺からふざけ方に輪がかかる感じがいいですね。特にキャラ名。メロスが山賊とあった時点で死んでいた山賊の手下について、犯人は/どうやって犯行を行ったのかという謎解き。シフト表の下りはめっちゃ笑ったし、ドヤ顔で「叙述トリックである」って言われたときには笑いながら「ふざけんなよ」って声に出しました*5。
ここあんまり書くと完全に三話のネタバレになるのでサクッと次に行きますが、終わり方も最高でしたね。
「第四話 メロスは入水した」、ここで太宰いじりが発動します。『メロス』でいうところの増水で濁流になった川をわたるところなんですが、そこで入水自殺しようとするオサムスと、オサムスの友人で既に死体となったカズオウスというキャラが出てきます。しまいには二人が泊まっていた宿の主はイブセマスです。どう考えても「熱海事件」です。でもここは、よく元ネタのこの場面で川→入水自殺→太宰いじり→熱海事件とつなげたなと感心してしまった。あとここのトリックが一番好きでした。『人間失格』のいじりから、きっかけとなるとなるセリフでパズルがバチバチッとつながる感じがめっちゃ気持ちよい。ラストもなかなか爽やかで急に青春小説っぽくなるのも好き。
「第五話 メロスは激怒した」、メロス2回目の激怒です。ちなみにここについてはプラトンに対する知識から真相が読み解けてしまいました。この情報だけではネタバレにはならないし、読者への挑戦で明言されるのでこれも書いてしまいます。一応正確にはこれだけじゃない謎解き要素があるので事前知識なくても楽しめることも併記しておきましょう。最後まで笑かしてきながらも不思議と爽快感のあるよいラストでした。
全体通して数時間で読めるのでちょっとした待ち時間とか使えば1日で読めるんじゃないでしょうか。なんせメロスが時短のためにちょいちょいフィジカルで解決しようとする*6くらいの内容なので、読んでる側もサクサクいけます。インターネットの人って特に『走れメロス』好きな印象があるので、インターネットとパロディと太宰治が好きな人には大変おすすめです。