前回、既に読み始めていると書いたとおりで読み終わりました。こりゃあいいや。理由は後述します。
本物の“贄”は誰かーーいきなり文庫の比嘉姉妹シリーズ短編集第3弾!
怖いのにおもしろい! 大人気比嘉姉妹シリーズ、短編集第3弾!
この後に各篇のあらすじがあるんだけど、なんか全6篇なのに3篇しかあらすじないんですよ。
どうしようかねこれ。あるやつだけ引用するか。
たなわれしょうき
いじめによって不登校になった中学2年生の翔太は、父の仕事の関係者である野崎昆の滋賀県での取材に同行することに。その土地では鍾馗の像を門柱に置く習俗があり、手が四本あるその独特な鍾馗は「たなわれしょうき」と呼ばれていた。翔太は取材中に不気味な影を目撃し、その夜、物言わぬ影に襲われる。この地には 「ナニカ」がいるのだろうか――。
まず、初手から皮肉屋でありつつ根が真面目で優しい野崎が見られて最高です。あらすじの通り不登校になった少年を引き連れて滋賀に取材に行く野崎なんですが、要所要所で「年齢とか気にせず誠実である」というところが垣間見えてやっぱいいやつだなこいつってなります。基本皮肉屋だけどね。この話は基本的に「人間は愚かだなぁ」という感想でした。「たなわれしょうき」ってのはかつてこの辺りの地域で起きた悲惨な事件で死んだ男の怨霊から身を守るための厄除け装飾のことなんだけど、まずこの悲惨な事件ってのが人間が愚かポイント1。ネタバレになるので書けないけど「ナニカ」についてが人間が愚かポイント2。既にだいぶ人間が愚かです。そしてあまり詳細は言えないけど今回の短編集通して「怪異の真相はロジックで解決できる」->「なんだそうだったのか......」-> うぇーい
って感じの話が多めでよかったです。
あと野崎崑というペンネームは「ノザキのコンビーフ」から取ったってのはなんかで出てきてた気がするけど、今回稲葉編集長がそれを気に入って稲葉鯛鰈(いなばたいかれー)というペンネームで書いていたことがあるというエピソードが出てきた*1のがかわいくて好き。
戸栗魅姫の仕事
公式のあらすじにないやつです。でもたしかにこれあらすじ書きづらいな。
ざっと書くと、霊能系YouTuber戸栗魅姫こと波多野朱莉が曰く付きの旅館で無限回廊のような怪異に迷い込んでしまい、居合わせた珠美という少女と一緒に脱出を試みようとする話。この話のキーワードは「嘘」なんだけど、なんだかやるせねえなとなってしまいました。まあ基本的には嘘はついた方がよくないと思ってるんですけど、結局のところなにをもってそれを嘘であると言い切れるかはかなりケースによるというか、事実に対して真偽をつけることはできるけど「紛れもなく事実である」と断定するのってそんなに簡単じゃないんですよね。ましてや昨今SNSなどで出てくる情報なんてなにを信じていいかわからん世の中になってしまったので、この話はかなり現代社会に対するカウンターパンチな気がします。
ちなみにこの話には琴子が出てくるのでガッツポーズして読んでたんですが、最終的には琴子がパワープレイで解決するのではない結末になったので結構びっくりしました。なるほどこういう引き出しもあるのかと。最後の戸栗魅姫が腹くくった感じも、結びとして爽やかながら人間の力強さを感じてかなりよかった。
火曜の夕方の客
比嘉真琴に持ち込まれた相談事。とあるカレー専門店に、毎週火曜日に不思議な客がやってくるという。彼女は1000円札でカレーを二人前買い、一口だけ食べるとすべてを持ち帰るらしい。不思議に思った店主が後をつけると、彼女は墓地の近くで姿を消した。この客の正体は、“幽霊”なのか――。
端的に胸糞悪い話ですね。まず客の正体*2がすげー嫌。ネタバレになるから言えないけど、客自体が嫌なわけじゃなくて、この客を取り巻く全ての状況が嫌と言った方が正確かもしれない。この話、ネタバレ回避したら書けることなんにもね〜。 まあ強いて書くとしたら、このカレー屋、「幽霊も食べにくるくらい美味しいカレー」として繁盛するんですよ。そこで店主が欲出しちゃうんですよね。あるキャラが火種ではあるんだけどそいつは善意寄りというかあくまでマーケティングのつもりで入れ知恵したら店主がちょい調子乗ってしまって大変なことになった、みたいな感じなんですけどやっぱり基本的に君子危うきに近寄らず/触らぬ神に祟りなしってのは原理原則だなと思いました。最後の一段落でさらっと終わって*3ちょっと笑いました。いや決して笑える話ではないんだけれども。
くろがねのわざ
フリーの編プロ谷村くんが特撮マニアから酷評される映画『惑乱の夏』について、あるいはその映画で特殊造形を担当した孤高の芸術家「鉄成生」について調査を進める話。映画『惑乱の夏』は昔ヒットした映画で世間的には名作と言われているものの、特撮マニアからボロクソにこき下ろされていて、その原因が孤高の芸術家「鉄成生」が芸術(特撮での高度な特殊造形)ではなく売れ線の映画の仕事を優先して受けたから*4だと。ここまではまあ現実でもありそうって感じだが、ボロクソにこき下ろされるもうひとつの理由が「鉄成生を褒めると身体に支障をきたす、しかし鉄成生を貶すとそれが収まる」という奇妙な現象ゆえ、というのが本筋になってきます。これも嫌な話だったな。なにが嫌かって基本的に悪いことした人いないんですよ。自業自得感が誰にもなく、だからこそ純粋な想いが怪異にまで昇華されてしまった、みたいな感じがしてやるせない。これも珍しく、琴子&真琴が駆けつけるも最後の決断が語られないという幕引だったのが新鮮。あ、ちょっと話それるけどゴジラの芹沢博士の話で締めようとするあたりが一貫して特殊造形の話をメインにしててよかったです。
とこよだけ
先輩ライター築井さんと一緒に、何人もの行方不明者を出す無人島に取材に行く野崎と真琴。頭痛に悩まされ、カメラにも特に変わった様子は映らずどうしたもんかと島を散策していくうちに、かつて行方不明になった人物の手帳を発見する。手帳を読む限り、どうやらこの島に入ってから「本来見えないはずのものが見えている」らしいことが伺える。が、そのとき先輩ライター築井さんの様子もなんだかおかしくなり.....?みたいな話。
これ、完全にやられました。
いやさすがにあれだけ当然のように網を張り巡らされたら気づかんですよ〜(ネタバレになるので具体的なことが書けない)。もちろんね、読み直せば明らかに「ここも、ここも、そういうことかい!」ってなるんだけど。この話もわりと「なんでかわからないけどそうらしい」みたいなふわっとした終わり方なんだけど、多分これは怪異がどうこうというよりも野崎と真琴の二人に焦点が当たってるからあえて怪異の謎を薄くしたんじゃないかな〜と勝手に想像してます。ただ、最近ちゃんと張ってある伏線を拾えてないことがちょいちょいあるので単純に僕がちゃんと読み切れてないだけかもしれないが。いずれにせよ早く真琴がどうなるのか見たいので続きが気になる。気になる!!!
すみせごの贄
ある日「外出する」と言ったまま失踪した高級料亭の元料理長の男。彼の料理教室に通っていた生徒たちや、アシスタントを務める娘によると、失踪前から奇妙な“予兆”があったらしい。生け垣から覗く不気味な人影、傷つけられた門柱の表札、男が教室で零した「すみせご」という譫言。代理の講師として教室にやってきた一人の女が解き明かす真相とは――。
最初に言っておきます。一人の女、辻村ゆかりです。ひゅー!
あと例のごとく嫌な話です。辻村ゆかりが出てきて嫌な話じゃなかった試しがない。序盤のわりとほんわかした描写の節々に「絶対これ嫌なやつじゃん」という匂いがプンプンしてて最悪でよかったですね。特に、料理教室の面々の無自覚な態度*5が一番嫌だったかもしれない。正味材料がかなり大盤振る舞いされているのである程度の真相はわかるんですが、わかっていたって嫌なものは嫌。やっぱり人間は愚かです。そういうところを辻村ゆかり怒りの正論パンチでぶちのめしてくれるのはなかなかに爽快だったんですが、「たなわれしょうき」で書いた「怪異の真相はロジックで解決できる」->「なんだそうだったのか......」-> うぇーい って感じで最高でした。よく考えたら「このパターンが多め」って書いたけど「たなわれしょうき」と「すみせごの贄」の2つだけだったわ。すみません。
やっぱり澤村伊智先生は短編になると切れ味がすげーんですよね。長編/中編での綿密な構築もすごいんだけど、短編だと大外から一気にぶっちぎる勢いで物語が描かれるから全く違う気持ちよさがある。昨今ドパなんちゃら*6って表現がありますけど、短時間でテンションぶちあげたいなら澤村伊智先生の短編を読んでください。「とこよだけ」の感想で書いた通り続きが気になってしょうがないんだけど、ここのところ2冊続けて読んでいるのでさすがに一冊なにか別の本を挟むと思います。でも気になる......気になるなぁ......。