ときどきDJ

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品田遊『止まりだしたら走らない』読んだ

文脈

tokidokidj.hatenablog.com

すごかった。前作『名称未設定ファイル』は完全な短編集だったが、本作は中央線を中心としたそれぞれの人間がリンクしている群像劇だ。そしてその緩やかなリンクを生み出していた二人の人間の最後に、月並みな言葉だが感嘆してしまった。美しかった。ネタバレになってしまうのでこれ以上書かないが、完全に「手のひらで転がされてしまった」のである。

文章も巧みだし、表現も瑞々しい。そして前作で感じていた人間への絶望みたいなところから一気に真逆の希望へ向かっている気がする。これは恐山氏の成長*1なのか、もとから持ち合わせていた創作の幅なのかはわからないが勝手に謎の感動をしてしまった。

いや本当に久しぶりに感じた衝撃だった。正直言うと途中までは「前作の方がいろいろな設定の物語が読めてよかったかもな」と思っていたのだが、最終2篇に差し掛かったあたりで頭から脳波が弾ける音が鳴ったんじゃないかというくらいのアドレナリンが出た。読んで本当によかった。

*1:成長と表現すると「人間へ希望を見出す方がよい」と捉えられかねないので、より精緻に表現するならば「時間経過による変化」の方が正しいかもしれない