ときどきDJ

ときどきDJをやっているIT系の人の殴り書きです。

貴志祐介『我々は、みな孤独である』読んだ

年始早々人を選ぶコンテンツの話が続くな。これも昨年読んだ感想です。

文庫を手に取る機会があったので読んだ。貴志祐介先生、好きな作家なので。2020年初版*1ということでわりかし最近のやつです。導入は探偵ものっぽいスタートで、探偵茶畑が依頼人正木から「自分の前世を殺した犯人を探してほしい」という依頼を受けるところから始まる。なんだか殊能将之『鏡の中の日曜日』っぽいなと思って読み始めたんだけど、流石は貴志祐介、話が進むにつれ全然違う展開の仕方をしていきました。オチを書いてしまうわけにはいかないのでボヤかした書き方になってしまうのだが、最終的なオチにものすごい爽快感があるわけではないんだけど「なんとなく嫌」なラストでこれはこれでよい貴志祐介作品だなと思ったりした。この小説とにかくオチにたどり着くまで長くて途中のことを書き出すときりがないので「なんだか何言ってるのかわからん感想」になってしまって申し訳ない。唯一途中の話に触れておくと『黒い家』のときにもあった「痛でででででででで」ってなるような拷問シーンがあるので苦手な方は注意してください。キーワードは刺し身です。本当にこの人はスプラッタとまではいかない絶妙に上品*2な「痛み」を描くのが上手い。あと茶畑を始め、毬子や丹野含む闇社会の大人たち、メキシカンマフィアなどもみんなキャラが立っていて「こいつ誰だっけ?」と一切ならない書き分けがさすがでした。ちなみに、話の中心は探偵茶畑の時間軸である現代だが、時代小説、戦争小説、昭和後期から平成初期のあの異常な空気感、オカルト、人間の精神世界についての思索など様々な文章を摂取できるバラエティーセットになってます。突飛な部分が結構あるので人にめちゃくちゃ勧めることはない気がするけど、ふと思い立ったときに「あんな小説あったな」と感慨に耽りそうな一作でした。僕はわりと好きです。

*1:文庫化は2022年

*2:スプラッタに比べて上品なだけでしっかり下劣ではあります