ときどきDJ

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恒川光太郎『無貌の神』読んだ

本当に「最悪」を書くのが上手い。スプラッターやホラーの方が「残酷」や「残虐」な直接的な描写はあるんだけど、「最悪」はそれとは別概念。「なんか嫌な感じ」を極限まで高めて文章にするのが上手すぎる。初手「最悪の千と千尋の神隠し」から始まるのも最悪でよかった。ていうか6編わりと最悪な話ばかりなんだけどね。強いて言うなら最後の「カイムルとラートリー」くらいだと思う、最悪じゃないお話。

で、この「カイムルとラートリー」がめちゃくちゃよかった*1。最悪じゃないとは書いたが人は死にます。人は死ぬ。人間の言葉が理解できる妖獣の幼獣カイムルと足が不自由だが千里眼を持つ皇女ラートリーの物語。叙事詩ですよこれは。わりと日本モチーフ*2の短編が続いた中でいきなり中東/アジアを思わせる世界。マジでこの人の創作能力の高さが恐ろしい。ラストも哀しくもどこか爽やかでカタルシスがある。すごい作家さんですわホント。あと個人的にお気に入りは「死神と旅する女」。絶対映像化できない*3内容で、どこまでもどん底で救いがなくてよい。話のあらすじは全く違うけど救いのなさに『人狼 JIN-ROH』っぽさを感じたりした。

とりあえず今回も最高でした。ありがとうございました、恒川光太郎さん。

*1:一応補足しておくけど僕は「最悪なお話が普通に好き」で読んでて、その上でこの短編がそれを上回るくらいよかった、という話である

*2:先に「千と千尋の神隠し」と書いたとおり日本的異世界や江戸から明治、明治大正、やや未来、現代っぽい時代、と時代感は縦横無尽

*3:少なくとも全年齢では無理