ときどきDJ

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葉真中顕『コクーン』読んだ

最近読書が滞っている。というのも、青崎有吾『図書館の殺人』を紙で読んでいて、以前言及した通り「ガチで犯人を当てに行っている」ため。文庫を読みながらiPadにメモを書いて絶対尻尾を掴んでやろうという気概で読んでいるので「本を読む」だけじゃなくて「推理をする」という作業が並行しているから時間がかかっている*1、という次第。で、なんで違う本読んでるのかというと「なーんも考えないで読む本があってもいいでしょ」と気楽にkindle unlimitedで読んだからです。あってもいいでしょ。もちろん『図書館の殺人』も読み続けるし、絶対犯人当ててやる。

話が逸れたが『コクーン』です。以前著者の『Blue』を読んで大変おもしろかったので別作品も読もうと思って読んだ。

一九九五年三月二十日、丸の内で起こった無差別乱射事件。カルト教団『シンラ智慧の会』による凶行の首謀者は、忌まわしき過去を背負う教祖、天堂光翅であった。彼や教団に関わった者たちの前に現れる一匹の煌めく蝶。金色の翅が導くのは地獄か、それとも……。平成を揺るがすテロ事件が生み落とした絶望とかすかな希望を、幻想的かつスリリングに物語る衝撃作!

カルト宗教の話が結構好きなので、あらすじに惹かれてこれを選んだ。ただ、確かに教団に関わった人間たちを描く物語ではあるものの、教祖である天堂光翅の内面が描かれるわけじゃないのでそういう話を期待すると肩透かし食らうかもしれない。それをあらかじめ言った上で、僕はめちゃくちゃおもしろく読ませてもらいました。すっごいおもしろい。すっごいおもしろくてマジで最悪。『Blue』のときも思ったんだけど、この作者の方は「すべての話がっ緩やかに繋がるとても爽やかな胸糞悪い話」を書くのが上手すぎる。ちなみに以下注意点です。

  • たくさん人が死にます
  • 全体的に性描写が多いです
    • 一部性暴力/タブー描写もあります
  • オウム真理教を想起させる描写があります
    • それに関連したテロの描写もあります
  • 東日本大震災の描写があります
  • 差別表現が出てきます

作者の方もインタビューで「当事者にとっては現在進行系の話だからエンターテイメントにしていいか迷った」「現実の事件や社会問題を扱う限りは、必ず誰かを傷つけてしまう可能性がある」と語っている*2とおり、自分が読むものではないと判断されたら無理せず読まないでください。

物語は4つのエピソードとそれに挟まる戦中戦後の満州から本土に帰ってくる*3話で構成される。「ファクトリー――2010」はカルト教団のテロによって息子を失った女性の話、「シークレット・ベース――2011」はカルト教団の教祖になる男の親友の話、「サブマージド――2012」はカルト教団で罪を犯した兄を持つ女性の話、「パラダイス・ロスト――2013」カルト教団に妻を洗脳されてしまった男*4の話。といった具合に前述の通り「カルト教団に関連する周囲」の物語。これらがすべて緩やかに交錯しつつ、その原点になるのが幕間の満州から帰還する女性の話で、まさにバタフライエフェクトといった感じ。個人的にすごいなと思ったのが、すべてのエピソードが単体でおもしれえのに「あ、ここが繋がるんだ」となるところ。単体でおもしろいからそのままでも全然成り立つのにきちんと繋がりがあってゆえに最後の「システム」という話にストンと落ちるというか。本編ラストについては作者のインタビューやネットで見た感想でも結構挙げられてるけど「都合よく逝きやがったが絶対肯定してやらないぞ」と僕は思いました。シンプルに自己中心的だと感じた。ただ反面、システムが存在していないとしても現実がままならないのは自分自身生きていて感じることではあるので「胸糞悪い」という感想に落ち着きます。

あと、これだけは絶対言っておきたいシリーズ*5なんですが、葉真中顕先生!最後あれ*6やる必要あったんですか!?そんなのってねえよぉおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!

*1:あと気合い入れて読まないといけないので気持ちが乗るのに時間がかかる

*2:その上で「書く」ということに非常に真摯な姿勢だと感じたのでぜひインタビューも読んでいただきたい

*3:一応満州で生まれた日本人女性という設定なので実際には初めて日本に来たということになるんだけど

*4:僕は松本智津夫について知らなかったのであとから調べて「なるほどそうだったのか」となりました

*5:芦花公園先生の『漆黒の慕情』での感想をご参照ください

*6:僕は電子で読んだので最終ページ、書籍で読まれてる方は全部読み終わったらカバーを外してみてください