なんとなーく最近はホラーの気分なんだぜ、ということでまたも『図書館の殺人』を放りだしてkindle unlimitedで読みました。なんども繰り返すんだけどiPhoneで読めると通勤中や休憩時間に気軽に読めるのでこっちのほうが進捗しちゃうんですよ。言い訳ここまで。
外科医は、被差別者を救うために違法な手術をすることを決意する。暴力刑事は、少女の行方不明事件の捜査中に、かつて自分が通り魔として傷つけた男に出会う。2人の物語が交差する時、衝撃の結末が!
と、あらすじには『鼻』のことしか書いていないけど、『暴落』『受難』という短編も収録されております。そして3編全部「嫌な話」です。ホラーっていうより「嫌」。嫌な話好きなんで結構楽しめました。ただ3つともネタバレ要素があるので全部言及するのが難しすぎる。
『暴落』は「個々人に株価がつき、それによって評価される*1ディストピア社会」で生きる若きエリートの話。主人公はエリートコースを進もうとしている銀行マンなんだけど、直近自分の株価の伸び悩みを打破すべく色々な選択をしていくがその選択がことごとく上手くいかない。嫌~。「多分こうなっちゃうんだろうな」という予想をきれいに全部悪い方向で踏み抜いていきます。それがある種痛快でもあるんだけど、自分の身に降り掛かったらと想像するだけで全てが嫌になる。あとやっぱり悪人は善人面して寄ってくるんだなというのも再認識できるので、フィクションじゃない我々の人生においても気をつけねばなと改めて思いました。
『受難』は目が覚めたら見知らぬ土地で右手と鉄パイプが手錠で繋がれていることに気がついた男の話。シチュエーションが既にイヤすぎる。観たことないんですけど映画『SAW』の一作目とかが似たようなシチュエーションなんですかね?あれと違って明確な「犯人」みたいなものは出てこないから構造的に全然違うのはわかってるんだけれども。この話の嫌ポイントは単純に状況が嫌だ*2というだけじゃなくて「どいつもこいつもまともじゃなくて言葉は通じるけど話が通じない」という点。読んでいくたびに登場人物にイライラするのでぜひ読んで嫌な気分になってください。
タイトルでもあり日本ホラー小説大賞短編賞受賞作である『鼻』のあらすじは前述の通り。「テング」と呼ばれる被差別民がいる社会の話*3なんだけど差別表現がフィクションであってもかなりキツくて嫌でした。よくこんな話を思いつくなと関心するレベル*4。で、話の構成は「差別社会で誠実に生きようとする医師」視点のパートと「少女行方不明事件を追う最低の暴力刑事」視点のパートが交互に来るんですが、この書き方自体もわりとミスリードになってしまうので解説が難しい。唯一これはギリギリのラインだと思うんだけど、両者とも精神疾患があります。そういう意味ではフィクションでありつつ「現実でも起きうること」であり、僕にとってはそれが一番の怖さでした。もちろん精神疾患のことを悪く言うつもりは毛頭なくて、ボタンの掛け違いや事故のように「たまたますべてのピースが不幸な方向につながる可能性があること自体が怖い」という話です。
短編でサクッと読めるので、短時間で効率的に胸糞悪くなりたい人にはおすすめです。ただ短編3つとはいえずっと嫌な話なので気分が落ち込んでる人は気をつけた方がいいかもしれない。その辺は各々の判断にお任せしますが、おもしろい話だったという感想だけはここに残しておこうと思います。次はもうちょっとホラーっぽさ全開のフィクションが読みたい気持ちがあるが、ここのところずっと体調を崩している&仕事がバカ忙しい&年末進行真っ只中なのであんまり余裕ないかもしれない。まあ無理なく読んでいきたいところです。