ときどきDJ

ときどきDJをやっているIT系の人の殴り書きです。

『汚れた手をそこで拭かない』聴いた

※ややネタバレがある*1ので気にする方は読まないでください

仕事がクソほど忙しい -> プライベートの時間がほぼ消滅 -> 仕事中でもながら享受できるコンテンツの話しかできなくなる -> Audible案件。

前評判で「最恐」ミステリと聞いていたのでホラー寄りなのかと思ったら全然違いました。どちらかというと「自分の落ち度に対する恐怖」。故に非常にリアルで、はっきりと「嫌」だった。最初に言っておきたいのは、芦沢央さんは「嫌さの解像度が高すぎる」。全五編にわたってどうしたらこんな嫌な話を高解像度でぶつけられるんだろう。当然褒め言葉です。

一編目は「自分が売った脚立から落ちて人が死んでしまった」。旦那の独白に対して余命いくばくの妻が実質探偵役というシチュエーションは新しいなと思った。あとクレーマーに対する解像度も高いのかい。最終的にはちょっと妻が頭切れすぎな感じもしたけど、お話の収まりは非常にきれいだった。

二編目は「小学校教諭が誤ってプールの水を抜いてしまったミスを隠蔽しようとする」。たまにニュースになる、誤って高額な水道代を払わなくちゃいけなくなったというケース。これが一番好きな話だった。ミスを隠蔽するために嘘をつき、嘘が嘘だとバレないようにまた嘘をつく。聴いててずっと「嫌すぎる」って思ってた。これ誰しも似たような経験あると思うんですよ、なにか壊しちゃった、とかで「さも自分は関係ないかのように振る舞う」経験とか。その体験に近いものをすごい解像度で描くもんだから本当に嫌だった。こういう話読むと*2悪夢見ちゃうんだよな。

三編目は「自分がブレーカーを落としたがために隣人が死んだ」。認知症の妻と暮らす老年男性の話。個人的にはこれが一番「自分の落ち度が少ない」と感じたので聴きやすかった。タイトルとしては「忘却」なんだけど、認知症という症状の意味があるのかというと話の本筋にはそこまで関係ないんだけど、オチへの流れのための設定としてなかなかに美しいなと感じる。解説の彩瀬まるさんが「不正を働く人間への解像度が高い」と評していたのを聴いてなるほどなと思った。

四編目は「映画監督が出演役者のスキャンダルやトラブルを隠蔽する」。自身としてはこれが売れれば世に出られる、という懇親の作品を作った映画監督の話なんだけど、主演役者がドラッグのスキャンダルをぶっこ抜かれそうになってしまう。そんなことされたら映画はお蔵入り*3になってしまう、それは避けたいと思っていたところ誤ってその役者を転落死させてしまう。事故を装ってことなきを得たと思ったらもう一人の出演者(映画はW主演で、死んだスキャンダル役者の相方となる主演の方)が容疑者扱いされてしまいまたもやお蔵入りの可能性が出る、という流れ。なんかもう「やっとどうにかなったと思ったら別の嫌なことが起きる」の繰り返しですごい嫌だった。この話は唯一「本当に自分も人を殺めている」というあたりが他と違うんだけど、不思議とエンタメとして捉えられる。でも最終のオチはちゃんと胸糞悪いです。

五編目ラストは「元彼に金を貸したら強請られる」。最後にこんなに後味悪い話持ってくるのかと感嘆してしまった。料理研究家で売れだした人妻が、独身時代に仕事先で不倫していた元彼と再開して金を貸すという流れ。これ絶妙なのが自分(主人公の料理研究家)はレシピ本とかが売れて金を持っていて、相手の元彼は仕事辞めて仏師になって貧乏、という構図で「優越感のために金を貸す」というのがトリガーになっている、という点。実際自分がその立場だったら金貸してドヤ顔してやろうって思っちゃう気がするんですよね。そしてまた相手の元彼が最悪も最悪で、偶然をちゃんと自分の欲望のために戦略的に退路を断っていくのが上手すぎて嫌。最悪と言ってよい。繰り返すが、こんなに後味悪い話持ってくるのか。

「怖い」という言葉のイメージとは違ったが、終始「嫌だなぁ」と思えたし、なにより短編が五編収録、というのがAudibleに適していてよかったです。シンプルにおすすめ。

*1:核心を突くほどのものはないが、オチの手前くらいまではちょっと書いてる

*2:聴いたんですけどね

*3:タイトルも「お蔵入り」