バカおもろい。
過去『その可能性は考えた』シリーズや『アリアドネの声』は読んだ*1が、デビュー作はこっちなんですね。上苙とフーリンが出るらしいというのを見たので興味が湧き読みました。
雪山の洋館での殺人。犯人は双子のどちらか。なのにいずれが犯人でも矛盾。この不可解な事件を奇蹟の実在を信じる探偵・上苙丞(うえおろじょう)が見事解決ーーと思いきや、癒やし系天才美人学者の硯(すずり)さんは、その推理を「数理論理学」による検証でひっくり返す!! 他にも個性豊かな名探偵たちが続々登場。名探偵を脅かす推理の検証者、誕生! 大ヒットミステリー『その可能性はすでに考えた』はここから始まった!?
ここから始まった?じゃないですよ、ここから始まってるでしょ。構成はあらすじの通りで、主人公森帖詠彦が母の妹にあたる叔母の硯さんに「相談」という体で既に解決済みの事件を持ち込む、相談とは「事件が正しく解決したのかを検証してほしい」という内容。各編で名探偵たちが華麗に事件を解決したかと思いきや、天才数理論理学者の硯さんの検証によって探偵たちの推理がひっくり返される。で、このひっくり返し方が非常に難しくて、解説見ながら読んでも「なるほどわからん」って感じなのですが、少なくとも嘘がつかれてなければ非常にロジカルでおもしれー解き方なんですよね。そして爽快。この「嘘をつかれてなければ」というのは単に自分の頭で論理式が間違えてないと検証できないからで、別に作者が悪意を持って破綻した論理をさも正しいかのように入れている、とかそういうことを言いたいわけではないとだけ注釈させてください。
Lesson1はことの始まり、幼馴染のゆりに連れられて大学OG4人の女子会に誘われた詠彦が、参加者の死亡という事件?事故?に遭遇する。死亡の原因はスターアニス(八角)と間違えてしきみの実を料理に使ってしまったことが原因で、しきみが植えられていることを言わなかった家主/しきみの実を採ってきた参加者/しきみの実を使った料理人の誰かが意図してやったことなのかを検証する。始まりにしてなんともやるせない話です。だって仮に故意だろうが関係ない二人はずっと心の凝りになるだろうし。探偵役はゆりの姉である藍前あやめ。鋭い推理で事故と結論づけるが、硯さんの検証によってそれが鮮やかにひっくり返されます。まあひっくり返され方は鮮やかだけど気分のいい話ではない。
Lesson2、大阪で殺人事件の解決に巻き込まれた詠彦*2。不特定多数の人間が出入りでき、かつ監視カメラにも収まらないで達成可能な殺人事件の解決に付き合わされる話。これ最初にほんのちょっとした叙述トリックがあって楽しいです。別に物語のネタバレにはならないから書いちゃいましたが本筋と関係ないのでまあ楽しんでください。詠彦の大学の先輩である中尊寺有が探偵役でこちらも見事に犯人特定、事件解決、かと思いきや硯さんの検証で覆る*3。この話で印象的だったのは「現時点では犯人が特定できない」で終わるところ。なんだか煮えきらないなと思っていたんですが安心してください。今はまだ安心してとしか言えないが。
Lesson3はいかにもな状況、雪の洋館での殺人事件。ここに来て上苙参戦です。ていうか読んでて思ったけど『その可能性は考えた』シリーズ読んでからこっち読んだほうがおもしろいかもしれない。上苙のキャラを理解した上で読めるので解像度が抜群に高まるというか。著作の流れ的には『恋と禁忌の』→『その可能性』なんだけど、この順番で書いて一切上苙のキャラがブレないのすごすぎない?話がそれたので戻すと探偵上苙に連れられ雪の洋館へ行った詠彦。依頼の謎は即座に解決したので帰りの日程までまったりしていた一同だが、翌朝洋館の主人である申神蓮花が殺害されいていることを発見、状況証拠的には蓮花の親族双子のイリアとオリガが有力だが事実ベースで検証すると双子に犯行は不可能となってしまう。ここで上苙が別の人間が犯行可能と解き明かしてその場は終わるのだが、ここでも硯さんの検証により上苙の推理は反証される。これ、読み口は全然コミカルですらあるんだけどわりと胸糞悪い話ですね。なにが胸糞悪いかは読んでのお楽しみです。
進級試験、最後の章のタイトルです。大好き!! 感想は以上です。*4
というわけで非常に楽しんで読めました。個人的には『その可能性は考えた』シリーズよりも好きかもしれない。硯さんも詠彦もよすぎる。あえて触れてこなかったけど冒頭からずっとからかいなのか本気なのかわからん硯さんの小悪魔っぷりと詠彦のピュアさがあまりに気持ちのいいフィクションですげーいい。『その可能性は考えた』シリーズのときも書いたけどアニメにしたらよいと思いますよ。ビジュアルのインパクトもあるし、大オチで最後に別軸の謎を残して終わるのが気持ちよすぎる。いやーこれは続編書きづらいだろうな。書きづらいからこそ『その可能性は考えた』シリーズへ続いたんだろうけどぜひ続きが読みたい。井上真偽先生、何卒よろしくお願いいたします。
