ときどきDJ

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夕木春央『方舟』読んだ

tokidokidj.hatenablog.com

去年買って積んでた一冊。先日本棚の状況を嘆いていたタイミングで「新たに本を買う前に既に買ってある本を読むべき」と思い立ち読了。「なんで今まで積んでたんだ」って思うくらいめーちゃくちゃにおもしろい。

9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?

大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。

イムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。

前にも書いたんだけど設定の時点でもうおもしろいんですよ、この小説。主人公である柊一、柊一の従兄弟の翔太郎が探偵役で、大学時代の部活仲間である裕哉、隆平、麻衣、花、さやか、山中で道に迷った矢崎一家3名を加わえてのミステリです。地下建造物の水没の危機という意味ではちょっとしたサスペンス感もあるが軸はあくまでミステリ、しかも本格*1。すべてのギミックが「犯人は誰だ」といういわゆるフーダニットの布石になっていて*2、読み終えたときの感想は「してやられた......」でした。正直読み始めたときは「設定のわりにド真面目だな?」みたいな印象だったんだけど、読み進めるごとにだんだん細かいところに違和感が生じてきて、なんかおかしい気がするけどまあ?みたいなことを考えていた。とはいえ、「順当に行くとこいつが犯人だろうな」と当たりはついたし、終盤に進むにつれて「ほーらやっぱりそうじゃん」みたいな展開が続いていくので王道だなぁと思っていたんだけど、全部作者の手のひらの上でした。

なんかこの小説、キャラの設定が絶妙なんですよね。読了者限定ネタバレ解説サイトで有栖川有栖先生が「キャラの深堀りが足りないと感じた読者へ」って解説を入れている*3んだけど、僕としてはこの「深堀りしすぎなさ」が全員に対してのそこはかとない不信感につながっていたので有栖川有栖先生さすがだぜって思いました。全員、なんとなく嫌なやつっぽいんだよな。唯一わりと全面で善なのはさやかくらいじゃない?これネタバレに近くなってしまうんだけど、終盤の翔太郎の振る舞いが明らかになにかおかしいって感じがして、なんなんだこの気持ち悪さはとモヤモヤしていたらエピローグで大爆発しました。これはもう爆発と表現するしかない。そうだ、書くの忘れてましたけどこの物語最高に最悪な結末を迎えて最高です。これくらい語彙をなくした感想が一番似合うと思う。「ざまーみろ」でもないし、「うーわ最悪」でもないし、やっぱり最終的な印象は「してやられた......」です。いますぐ映画にしてくれ!

ちなみに前述の読了者限定ネタバレ解説サイトでの有栖川有栖先生の解説も最高で、ぜひ『方舟』読了者は全員読んでいただきたいくらい感銘を受けた。あと、多分YouTubeに公開していない「ほんタメ」のネタバレ感想回の動画も観られるので必聴です。なぜならゲストがQuizKnock山本さん(大好き)だから。と、書いたところで、ネタバレなし版は普通にYouTubeにあったので貼っておきます。


www.youtube.com

これの山本さんの「おもれー」で爆笑しました。完全同意。これ、繰り返しで申し訳ないんだけど有栖川有栖先生が「読了者しか通じ合えないコミュニケーションを楽しんでほしい」みたいなことを書いていたのが「わかる!!!!」って感じだったので、読んだ人ぜひ教えてください。「あそこヤバくなかったですか?」って話しましょう。

*1:これすらミスリードでもある

*2:これもミスリードでもある

*3:内容としては、物語の構造的に深堀りしすぎない方が深みが出るのでそういうものですよ、という説明がある