ときどきDJ

ときどきDJをやっているIT系の人の殴り書きです。

『弔い月の下にて』読んだ

文脈です。

夷戸シリーズですね。倉野憲比古先生から直接ご紹介いただいたのでだいぶ時間が経ってしまったが拝読させていただきました。 あらすじとしてはシリーズの主人公である心理学専攻の大学院生夷戸と仲間の編集者である根津、夷戸が好為を寄せている喫茶店マスター美菜の3人が旅行先で元隠れキリシタンが住んでいた不吉な島へ見物に行ったところ、島唯一の建物「淆亂(バベル)館」の従者に船を壊され軟禁されてしまいさあ大変、先客としてともに軟禁されていた劇団員や雑誌記者とカメラマンたちが呪われた島の呪われた館で奇妙な殺人に見舞われる、一体どうなってしまうんだ、という感じ。すみません倉野先生、わたくし要約が苦手なのです。

と書いたところで、普通に出版社のあらすじ持ってきた方がわかりやすかったな。

心理学を専攻する大学院生の夷戸と彼の先輩の根津、ふたりの行きつけの喫茶店のマスターの美菜は三人で壱岐に旅行にやってきた。 根津の提案でボートを借り、かつて隠れキリシタンの島民が大量死したという曰くある島「弔月島(ちょうげつとう)」の見物に出かける三人。島にはキリシタンの末裔である富豪が築いた奇妙な館・淆亂館(ばべるかん)が残っていた。 上陸した三人は、「館の使用人」を名乗る獰猛な男たちに拉致され、館に軟禁される。そこにいたのは、有名な劇団のメンバーたちとゴシップ記者。淆亂館の主は、彼ら全員と因縁のある、十年前に失踪した「伝説の俳優」なのだと言うが…… 謎の黒衣の男が跋扈し、次々と起こる謎めいた殺人。作者渾身のシリーズ第三作は、異常なロジックと奇矯なトリックが炸裂する傑作変格ミステリ

うん、わかりやすい。こういうことが言いたかったんです。

以前読んだ『スノウブラインド』に比べると奇書感は薄く、読んでいる最中はわりとまっすぐな推理ものという印象を受けたが、伊留満の話が出てきたあたりからいろいろ様子がおかしくなってきていいぞいいぞと思っていた。あと若干『スノウブラインド』よりもスプラッタ描写が強くなってる気がする。キャラクターも個性がかなり強くて、思い返せばまともな人間だったの美菜と蜷川だけだった*1

というか伊留満があまりに最悪すぎてよかったです。特にエゴールシカのくだり。価値観がオープンになった現代であってもあれはNG。最悪。最悪すぎるのでただのホラーじゃないリアリティを感じられるし、それでいて超越的存在の香りもするからこそミステリでありながらホラーも感じることができる。両サイドからグイグイきて頭揺さぶられる感じ。なのでこの本のすごいところは読み進めていくと「真っ直ぐな探偵モノ」「ホラー」「スプラッタ」「サイコスリラー」と、どんどん感じる印象が変わっていく*2。あと最終的に誰も幸せになってない*3ところもよかったっすね。ていうか書いてて思ったんだけど「ここが好きだった」みたいな情報がどうしてもネタバレに繋がりかねないのでなかなか書けなくてもどかしい。本当はもっと好きポイントを羅列したいのだけど、どうしてもふんわりした感想しか書けない。ミステリってのは困ったもんです。ただ、ネタバレにならない範囲で言えば僕は東條と石崎の話が大好きです!!!

ちなみにラスオチでスパッと解決、みたいなタイプのお話ではないので、そういう前提で読んだ方がよいです*4。真綿で締められ酸欠になって見た白昼夢みたいな感じ。褒め言葉です。

またもや読むのに結構時間がかかってしまったが、週末の楽しみとして大変楽しませていただきました。次はぜひ『墓地裏の家』も行きたいところです。

tokidokidj.hatenablog.com

*1:いきなり人の顔の包帯取ろうとする美菜も十分イカれてると考えると実質蜷川のみになるが

*2:最終はやはりホラーっぽいと思って終わった

*3:不幸になってない人はいるけど幸せになった人はいない、の意

*4:スッキリはっきりした終わり方が好きな人にはちょっとモヤるかもしれない