僕は法月綸太郎氏の本を読むときになぜかスピードが出ない*1のだが非常におもしろかった。前回読んだ『雪密室』は推理作家法月綸太郎とその父親法月貞雄警視がふたりとも推理に参加していたが、今作は法月綸太郎オンリー。父親も登場こそすれど推理はしない*2。
ある日女子高生西村頼子が殺害され、父親である西村悠史教授が独自に捜査をして犯人に手を下した。そして西村悠史教授は自殺を図った*3ため、本人が捜査内容などをまとめた「手記」をベースにこの事件の真相を法月綸太郎が吟味していく、というあらすじ。
端的になにがこの小説を気に入ったかというと「最悪のピタゴラスイッチ」があまりに美しかったからだ。ありとあらゆるピースが最悪の形ではまっていき、最後にきれいに着地する。そして着地先も最悪。これを最悪のピタゴラスイッチと言わずしてなんと言えばいい。逆に教えてほしい。あと途中まで僕はとある登場人物を疑っていたのだが完全に見込み違いでした。よくよく考えたらあんなに「ちょうど犯人の十分条件を満たしている登場人物」が配置されていたのだから「そうですこの人でーす!」と作者が着地させるはずがない。現に件の登場人物は作中一回犯人扱いされて「反応をみるためのブラフ」と突きつけられている*4。まんまと引っかかりました。もちろん物語後半にならないと開示されないヒントもあるのでしょうがないと言えばしょうがないんだけど、そういったヒントの開示からストーリーの展開速度含めて非常に美しかった。あとまさかJoy Divisionが出てくるとは思わなかったけど『Love Will Tear Us Apart』をあれだけきれいに回収したのには感嘆した。
最後に、法月氏はあとがきで愚痴ってるのが人間らしくて好きなのだが、kindle unlimitedで読める2017年の新装版には「新装版への付記」がある。これが美しくて、最後の最後にちょっと泣いてしまった。