ときどきDJ

ときどきDJをやっているIT系の人の殴り書きです。

いつまで経っても教えられることばかりだ

ぼーっとFacebookを眺めていたら、前職の社外取締役の方の投稿が目に入った。それがとても感慨深かったので感傷的な話しを一つ。身バレと先方の特定を避けるために*1濁した書き方になるが許していただきたい。

出会いとその人

出会い自体は上述の通り、僕が入社した会社の社外取締役としてその人がいた、それだけだ。入社当時は本当に経営の相談として関わっていたようで、社長とミーティングに来ているときに挨拶をしたり株主総会のときにお茶を出す程度で、あまり深く関わったりはしていなかった。それでも、そんな薄い繋がりのときから会うたびに「お、元気にしてるかい?」と明るく笑顔で話しかけてくれてとても人当たりのいい方だという印象を持っていた。

その方は世界的に有名な某社のトップを務めていたり、いまや日本でも普通に普及している非常に有名なプロダクトを(経営者として)作り上げたすごい人なのは話に聞いていた。そんなすごい人が普通に挨拶してくれるというのがなんだか不思議な気持ちだったが、トップに立つ人間というのはこういう人当たりのよさを持ち合わせているもんなのかなと思っていた。その後少しずつ一緒に仕事をするようになり、提案書を見てもらったり事業計画などを作ってはチェックしてもらったり一緒にミーティングに同行してもらったりしていた。

別れ

別れと言っても、別に喧嘩して絶縁したとか粗相をして出禁*2にされたというわけではなく、僕がその会社を去ってしまったというだけだ。風のうわさに聞くところによると、その方も前職の社外取締役は辞任して中小企業で社長をやっているらしい。そうして僕とその方の接点というのは今となってはFacebook上で友達になっているくらいだ。

Facebookでの投稿

フィードを眺めていると力強い長文が目に入った。まんま載せると特定出来てしまうので端的にいうと

会社の大小問わず、経営者は寝ても覚めても仕事である

しかも自分が今までやってきたことがすべて経験則として通用するとは限らない

だから自分の覚悟で走り続けろ

と言った内容だった。内容としては至極一般的な話に聞こえるかもしれないが、どうしてもその方と退職前に飲みに行ったときのことを思い出す。

二人で話した夜

僕は辞める直前それなりに高いポジションにいたので、退職希望の旨を経営層に伝えたところありがたいことに引き止めてもらった。もちろん僕も引き止められるだろうとは思ったが、それを踏まえて退職を希望していたので具体的な退職日についていかに会社に迷惑をかけないように進めるかに焦点を絞って話し合いを行った。さすがにそういった姿勢で僕が出るものだから、経営層としても「もう止められないだろう」と認識されたようで、僕も会社も協力しあって退職の準備を進めていた。そんななか、当時社外取締役だったその方から「週末の夜に時間があったら飲みにいかないか」と誘いを受けた。

僕は「最後の引き止めはこの人が来たか」と思って失礼のなさそうな店を予約した。引き止めなら社長も来るだろうと思ったから社長のスケジュールを調整しようと思ったらどうやら先約が入っている。これは不味いとその方に連絡を入れたところ、二人で飲みたいから社長は同席しなくていい、とのことだった。一体なにが始まるんだとビビりながら、予約をして、店の場所と時間を伝えて、ドキドキしながら待った。その間、その方から来た連絡は「予約ありがとう!」というメッセージだけだった。

当日は仕事をさっさと切り上げ、店の前で待っていた。少し遅れてやってきたその方は笑顔で現れて、第一声で遅れたことを詫びた。ああ、人格者だと思った。店に入ってからはお互いビールで乾杯してからいろんな話しをした。その時の会社の状況について、僕が見ていた事業部の展望について、業界全体の流行について。そして一通り話したあとに、すっと切り出された。

「なんで辞めようと思ったの?」

来たか、と。しかし僕の気持ちは決まっていたので、自分の考えていることを正直に話した。その人はずっと笑顔で、しかし真面目に僕の話しを聞いてくれた。相槌を入れて、時折笑いながら、静かに話しを聞いてくれた。そして口を開いた。

「きみみたいな人、たまにいるんだよな。応援したいから頑張ってよ。身体壊さない程度にさ。」

てっきり引き止められるのかと思っていた僕は思いっきり肩透かしをくらった。

「ただ、しんどくなったら帰ってきていいと思うんだよ。あいつ(社長)もそう言ってたし。」

「現実はしんどいけど、でもきみならやっていけると思うよ。ただ、金がなくなって飯食えなくなったら家に飯食いに来な」

「わからないことにぶつかりまくると思うけど、僕が答えられることもあるだろうからなんかあったら連絡ちょうだいよ」

と終始笑っていた。僕はなんだか驚いたというか気が抜けてしまって、ぽかーんとしていた気がする。あれ、なんだかすごい人が応援してくれるって言ってるぞ、どういうことだ?と。

そこから先は未来の話しをしていた。僕の新天地でどういうことができるか、世の中にどういう価値を提供できるか/しなくてはいけないか。さらに、業界として未来に向けてどういうことをやらなくちゃいけないか/どういう方向に向かってはいけないか。組織とはどうあるべきか、いままでがどうあって/これからどうなっていくのか。現在に縛られていた僕をさっと未来の話に導いてくれた。そのときあらためて、「ああ、この人は僕には想像もつかない人数の従業員を束ねて引っ張っていける人なんだ」と思い知らされた。そして帰り際に「てっきり引き止められると思ってたので驚いちゃいました」と伝えたら、その方は笑いながら一言返した。

「それがきみの覚悟なんだろ?」

自戒

そんな夜を経て、僕はさらに数社を転々とし、今は経営者として仕事をしている。その方が言っていた「きみならなんとかなる」という嬉しい言葉もすっかり記憶の奥にしまい、日々悶々としながら東奔西走して、自分のやってきたことに少し疲れてしまっていた。トップでも疲れたときは休みてーんだよとか思いながら、結局寝ても覚めても仕事のことを考えている。なんてうまくいかないんだろう、なんて疲れるんだろう、そんな愚痴が口から出る寸前の状態をずっと続けている日々でFacebookの投稿を見て自戒の念が生まれてきた。

ああ、こんなにすごい人でもやっぱり同じなんだ、と。

しかし僕は腐りかけて死に体寸前で仕事をしている。でもその方はあの時と変わらず前を向いて走ってる。あんなにすごい人が、同じようなことを考えながら、未来に向かって走ってる。そんな状態を見せつけられたらなにを腐ってたんだろうと自分が恥ずかしくなってきた。自分に何ができるかは重要だが、どういう未来があるべきかを考えて動かなくちゃいけない立場なのに。もう10年くらい前のあの夜を思い出して、まだ足元にも及んでないことを思い知らされた。しかしもう下から見上げるのはゴメンだ。僕はもっと努力をする。そして胸を張って横に立ってみせる。そういう気持ちにしてもらった。

ただ、当時からずっとその人は僕を下に見るわけでなく話をしてくれた。だからもう変な意地は張らずにいこうと思う。これから週末の予定を確認して、10年くらいぶりにまたメッセージを送ろう。

「ご無沙汰してます、週末の夜にお時間があったら久しぶりに飲みにいきませんか?」

*1:僕自身としては身バレしても大してダメージはないのだが

*2:対個人についてなんて言葉を使うのが適切なのかわからないので「出禁」にしておく